労災保険の認定に必要な条件と基準
労災保険の給付が認められるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
①被災者が労働者であること
②ケガなどが業務中または通勤中に生じたものであること
③ケガなどが業務又は通勤を原因に発生したものであること
各要件について以下で詳しく見ていきましょう。
①被災者が労働者であること
当然ですが、被災者が労働者でなければ労災保険の給付は認められません。例えば、中小企業の経営者である場合や、一人親方の場合などでは、労働者ではないので、労災保険は受けられません。
ただし、経営者などであっても労災保険の特別加入手続きを行うことで、労災保険の適用を受けることができるケースがあります。
②ケガなどが業務中または通勤中に生じたものであること
労災保険の給付を受けるためには、ケガなどが業務の遂行中または通勤中に生じたものでなければなりません。
業務の遂行中というのは、労働者が労働契約に基づき事業者の支配下にあるときに発生したことを意味します。例えば、所定の就業場所で就業時間中にケガをした場合はもちろんのこと、休憩時間中に施設・設備から発生した災害で被害に遭った場合でも業務の遂行中といえます。
また、通勤中といえるためには、①住居と就業場所との往復の際や、②ある就業場所から別の就業場所へ移動する際、③単身赴任先住居と帰省先住居の移動の際のいずれかの場合で、「合理的な経路・方法」で行われる事が必要となります(労災保険法7条2項)。
「合理的な経路・方法」であることが必要なため、例えば、職場からの帰宅途中に酒場などで長時間飲食するなど、退勤経路から逸脱したり、仕事とは関係ない私的行為を挟んで退勤を中断したりした場合は、通勤中とは認められなくなります。
③ケガなどが業務又は通勤を原因に発生したものであること
上記②が認められたとしても、ケガなどが業務又は通勤を原因として発生したものでなければなりません。つまり、業務(又は通勤)とケガなどとの間に相当程度の因果関係が必要になります。
例えば、業務として高所での作業中に足を滑らしてケガをした場合などは、特段の事情がない限り、業務とケガとの間に因果関係があるといえます。また、自宅から会社へ車で向かっている最中に交通事故に遭った場合には、特段の事情がない限り、通勤とケガとの間の因果関係が認められます。
もっとも、労働者自身がケガなどを故意に引き起こした場合や、業務や通勤とは全く関係ない事情でケガなどをした場合は、労災保険の対象とはなりません。
弁護士 寺岡幸吉は、社会保険労務士としての経験を活かし、労働災害をはじめとした労働問題に関する様々なご相談を承ります。
川崎市、横浜市、大田区、品川区など、神奈川県や東京都にお住まいの方のご相談に広くお応えいたします。
労働災害・労災保険でお悩みの方は、当職までご相談下さい。
弁護士寺岡が提供する法律知識
-
後遺障害等級の認定と...
業務又は通勤が原因となった傷病が固定し、これ以上治療を続けても効果が期待できない段階(症状固定の段階)で、身体に一定の障害が残った場合には、障害補償給付(業務災害の場合)または障害給付(通勤災害の場合)が支給されます。& […]
-
名ばかり管理職
「名ばかり管理職」とか「なんちゃって管理職」などと呼ばれている問題があります。これも、労働に関する法律の実務の世界では、古くて新しい問題です。 労働基準法41条には、「監督若しくは管理の地位にある者」については […]
-
損害賠償請求をすると...
損害賠償請求を行う際には、次の点に注意しましょう。 ・労災保険とは異なり、使用者側の故意・過失(ないし使用者側の責めに帰すべき事由)、因果関係、損害額などを主張・立証しなければならない・被災者側に過失が認められ […]
-
相続の流れ
■相続とは相続とは、被相続人(故人)が残した遺産を相続人が引き継ぐことをいいます。相続は人が亡くなったと同時に開始され、相続の開始とともに様々な手続きを同時並行で行う必要が出てきます。ここでは、相続が開始されたあとに行わ […]
-
不当解雇とは
不当解雇とは、解雇条件を満たしていないか、解雇の手続きが正確でない解雇のことで、労働基準法・労働契約法等の法律の規定や、就業規則の規定を守らずに、使用者の都合で一方的に労働者を解雇することをいいます。 会社の経 […]
-
成年後見制度のメリッ...
■成年後見制度の概要成年後見制度とは、判断能力の低下した成年の行為能力(契約等を行う能力)を制限し、後見人等に同意見・代理権・取消権等の権限を与える制度です。この制度の目的は、本人の判断能力を後見人等が補い、財産を保護す […]