成年後見制度と高齢者虐待
高齢者・障害者の権利に関する委員会
私は、弁護士になった当初から、弁護士会(当時の名称は「横浜弁護士会」で、今は「神奈川県弁護士会」に変わっています)の「高齢者・障害者の権利に関する委員会」の活動に参加しました。
この委員会の中には、当時、四つの部会があって、その一つが、「虐待防止部会」でした。「高齢者虐待防止法」という法律があるということは、修習生(司法試験合格後、1年間の研修を受ける立場の人)のときに知りましたが、それ以上のことは何も知りませんでした。でも、逆に、何も知らないから勉強したいという気持ちがあって、その部会に参加しました。
参加して、高齢者虐待防止法についての本を読んだり、研修会に参加したりしましたが、それでも、あまりピンときませんでした。本で読んだり研修会で聞くことが、あまり現実味をもって感じられなかったというのが正直なところです。
高齢者虐待について、専門職の方々との協力関係の中で
私の中でそのような気持ちが大きく変わったのが、行政から委託を受けて、高齢者虐待の事案について、法律的なアドバイスをするという仕事をやるようになってからです。担当者から聞く話は、今、現実に起こっている事柄です。私のアドバイスの内容によっては、虐待を受けている高齢者を危険にさらすことになるかもしれない。高齢者虐待に真摯に対峙している行政の職員に、違法なことをやらせてしまうかもしれない。
そんなことを思うと、これまでよりも真剣に、事案に取り組むようになりました。そんな活動を続けている内に、高齢者虐待については、ある程度自信を持って話せるようになりました。
ところで、高齢者虐待に対峙して、これを防止したり解決したりするには、弁護士だけではほとんど役に立ちません。行政や、地域包括支援センター、ケアマネ、サービス提供事業者、医師、民生委員、場合によっては警察とも力を合わせて取り組むことが必要です。これらの人がいて初めて、弁護士の法的な知識が活きてくるのです。私が、高齢者虐待についてある程度自信を持って話ができるようになったのも、これらの人達と一緒に活動してきて、その活動の中で、彼らから多くのことを学んできたからです。
現在も、行政に対してアドバイスをしたり、上に挙げたような様々な専門分野を持った方々と一緒に話し合う会議の議長をさせて頂いたりしながら、今も多くのことを学んでいます。
高齢者虐待と成年後見制度
ところで、高齢者虐待と成年後見制度には、密接な関連があります。例えば、同居の家族が、高齢者虐待をしているという事案を考えましょう。この場合、同居していることが高齢者にとって危険だと行政が判断した場合、「やむを得ない措置」(高齢者虐待防止法9条2項、老人福祉法10条の4、11条)として、施設に入所してもらうなどの方法をとる場合があります。
しかし、これは臨時の措置なので、その後、入所を継続する必要がある場合で、その高齢者が認知症などのために自分で施設との契約ができない方であったりすると、成年後見人や保佐人などをつける必要があります。この手続は、行政が行う場合が多いのですが、行政自身が、後見人や保佐人になることはできません。そこで、弁護士などの専門職が成年後見人や保佐人に選ばれます。ちなみに、虐待事案で後見人に就任する専門職は、弁護士が多いと思います。
司法書士も、最近は虐待事案の後見人になりますというアピールをしているようですが、経験という点では、弁護士に一日の長があります。虐待事案で後見人や保佐人に就任すると、通常の後見や保佐では起こらないような様々な出来事があります。そのような事案に的確に対応するためには、先ほど述べたような、他の専門職との連携などを通じて得た深い経験と、それに裏打ちされた高度な法律知識が必要です。
高齢者虐待についても、成年後見についても、これからいろいろと書かせていただく予定ですが、今回は、私が高齢者虐待の問題に取り組むようになったきっかけと、高齢者虐待の事案と成年後見制度が交わる典型的な場合をご紹介させて頂きました。
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