通勤中の事故は労災と認められる?
労災保険の対象となる災害の中に、「通勤災害」というものがあります。
通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労災保険法7条1項2号)。負傷などの災害は、通勤中に一般的に生じる可能性があるものであればよく、例えば、交通事故や、駅の階段からの転倒、落下物、がけ崩れ、夜道でひったくりに遭った際の負傷なども認められます。
通勤災害に該当するかを検討の際によく問題となるのは、ケガや病気などが「通勤」中に起こったといえるかどうかです。
「通勤」中かどうかは、①住居と就業場所との往復の際や、②ある就業場所から別の就業場所へ移動する際、③単身赴任先住居と帰省先住居の移動の際のいずれかの場合で、「合理的な経路・方法」で行われたか否かで判断します(労災保険法7条2項)。
「合理的な経路・方法」は、労働者がいつも通勤に用いている経路・方法に限らないので、例えば、普段は電車を利用して通勤している労働者が、バスやタクシーを利用して通勤したとしても、それが合理的なものといえる限り、問題なく「通勤」中といえます。
ただし、帰宅途中に酒場等で長時間飲食するなど、往復経路からの「逸脱」や往復行為の「中断」があった場合は、それ以降はもはや「通勤」とは認められません(労災保険法7条3項本文)。
もっとも、これにも例外があり、その「逸脱」や「中断」が、労働者の日常生活上必要な一定のやむを得ない事由による最小限度のものであれば、その終了後は再び「通勤」と扱われます。
以上のまとめとして、通勤災害と認められるケースと認められないケースは、次のものになります。
●通勤災害と認められるケース(但し、個別の事情により認められない場合もあります)
・普段利用している路線で人身事故が生じたため、迂回路で通勤中にケガをした
・子どもを引き取りに、就業場所からの保育所へ向かう途中に事故に遭った
・別の就業場所へ向かう途中、経路近くのコンビニに寄って飲食物を購入した後、落下物に当たって負傷した
・体調を崩したので早退し、そのまま病院で診察を受けた後、交通事故に遭った
・就業場所から通勤経路外の、要介護状態にある親の家に立ち寄り、介護をした後に事故に遭った
●通勤災害と認められないケース
・休日に会社の運動施設へ向かう途中で事故に遭った
・帰宅途中に普段利用しているスポーツジムに立ち寄り、そこでケガをした
・仕事終わりに同僚と長時間酒場を利用した後、重度の酩酊状態のため、駅の階段で足を滑らせて転倒した
弁護士 寺岡幸吉は、社会保険労務士としての経験を活かし、労働災害をはじめとした労働問題に関する様々なご相談を承ります。
川崎市、横浜市、大田区、品川区など、神奈川県や東京都にお住まいの方のご相談に広くお応えいたします。
労働災害・労災保険でお悩みの方は、当職までご相談下さい。
弁護士寺岡が提供する法律知識
-
成年後見制度のメリッ...
■成年後見制度の概要成年後見制度とは、判断能力の低下した成年の行為能力(契約等を行う能力)を制限し、後見人等に同意見・代理権・取消権等の権限を与える制度です。この制度の目的は、本人の判断能力を後見人等が補い、財産を保護す […]
-
労災保険以外の補償を...
業務中または通勤中にケガなどの損害を受けたときは、労災保険以外の補償も受けられないかを検討してみましょう。具体的には、慰謝料などの「損害賠償請求」ができないかを考えてみましょう。 ●損害賠償請求労災保険の対象と […]
-
労災隠しについて
労働災害が発生しても、会社が労災を認めず、労基署への報告を行ってくれないことがあります。いわゆる「労災隠し」であり、決して珍しいことではありません。 会社が労災隠しを行う理由としては、次のことが考えられます。& […]
-
社会保険労務士を経た...
弁護士 寺岡 幸吉は、社会保険労務士を12年経験しています。 社会保険労務士(社労士)は、労働法や労働・社会保険に精通した専門家です。社労士は、労働・社会保険の手続きを代行すること、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿 […]
-
高齢者への経済的虐待
■高齢者への経済的虐待とは高齢者への経済的虐待とは、高齢者に無断で金銭等を使い込むことや高齢者が金銭等を利用することを理由もなく制限することをいいます。高齢者は銀行預金等の財産の管理を事実上家族に任せている場合も多いため […]
-
就業規則の作成
1 就業規則とは就業規則とは、一言で言えば、職場の規律や労働者の労働条件などについて、使用者が定める規則です。就業規則で定めなければいけない事項は法律で定められており(労働基準法89条)、その範囲はかなり広範です。以下、 […]