名ばかり管理職
「名ばかり管理職」とか「なんちゃって管理職」などと呼ばれている問題があります。これも、労働に関する法律の実務の世界では、古くて新しい問題です。
労働基準法41条には、「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働基準法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないと定められています。労働時間については、1日8時間、1週40時間という制限があることについては、ご存じの方が多いと思いますが、「監督若しくは管理の地位にある者」については、その制限が及ばないのです。これは、制限時間を越えて働いても、割増賃金を支払わなくてもいいということでもあります。

ただ、注意しなければいけないのは、労基法41条は、「監督若しくは管理の地位にある者」と規定しているのであって、「管理職」と規定されている訳ではないということです。それなのに、「管理職には割増賃金を支払わなくてもいい」と思っている人が少なからずいます。このような誤解を避けるために、労基法について、ある程度知識のある人は、労基法41条に定める人について「管理監督者」と呼んで、管理職と区別しています。
「管理監督者」と「管理職」とは違うということを知っている人でも、課長職以上であれば「管理監督者」にあたると思っている人が意外と多いのです。私の推測ですが、この誤解の原因の一つは、厚生労働省(当時は労働省)の通達にあるのではないかと思います。
昭和52年に、当時の労働省の労働基準局長が出した通達(「基発」と呼ばれます)の中に、都市銀行であれば、本店の課長職以上、あるいは大規模支店の課長職以上で本店の課長職以上と同格の人が、管理監督者かどうかのボーダーラインの目安になるというようなことを書いたものがあります。どうも、この中の「課長」という言葉が一人歩きしてしまったように、私は思っています。
「課長」であれば、みんな管理監督者という訳ではなく、経営者と一体的な立場で仕事をしているのかどうかとか、勤務時間について厳格な制限を受けていないとか、職務の重要性に相応の待遇(手当など)を受けているかどうか、などを総合的に判断しなければならない、というのが、判例の基本的な立場です。
こんな状況にないのに、「管理監督者」にされて、残業手当などを払ってもらえていない人のことを、「名ばかり管理職」とか「なんちゃって管理職」などと呼んでいます。正式な法律用語ではないです(少なくとも、労働法の教科書には出てきません)が、昔から問題になっていて、未だになくならない(かえって多くなっている?)問題です。
例えば、コンビニの店長などは、経営者と一体的な立場とはとても言えませんし、労働時間についても、ある時間帯に入ってくれるアルバイトがいなければ自分がはいらなければいけないなど、勤務時間については、一般の会社の平社員よりも最良の範囲が狭いとも言えます。そのため、コンビニの店長については、「管理監督者」ではないとした裁判例はいくつもあります。
弁護士 寺岡幸吉は、川崎市、横浜市、大田区、品川区を中心に、神奈川県、東京都にお住まいの皆様からのご相談を承っております。
労働問題など、あらゆる問題に対応しておりますので、お困りの際にはお気軽に当事務所までご相談ください。豊富な知識と経験から、ご相談者様に最適な解決方法をご提案させていただきます。
弁護士寺岡が提供する法律知識
-
就業規則の作成
1 就業規則とは就業規則とは、一言で言えば、職場の規律や労働者の労働条件などについて、使用者が定める規則です。就業規則で定めなければいけない事項は法律で定められており(労働基準法89条)、その範囲はかなり広範です。以下、 […]

-
障害等級に不服がある...
後遺障害等級に認定された場合でも、認定された等級が思った以上に低い(障害の程度が軽いと判断される)ことがあります。その認定に不服がある場合は、どうすればよいのでしょうか。等級が一つ異なるだけでも支給金額は大きく異なり、特 […]

-
労災隠しについて
労働災害が発生しても、会社が労災を認めず、労基署への報告を行ってくれないことがあります。いわゆる「労災隠し」であり、決して珍しいことではありません。 会社が労災隠しを行う理由としては、次のことが考えられます。& […]

-
高齢者の囲い込み~成...
(1)「高齢者の囲い込み」の典型例と問題点最近、「高齢者の囲い込み」という問題が多くなり、社会問題化しています。インターネットで、「高齢者の囲い込み」で検索して頂くと多くのサイトがヒットします。高齢者の囲い込みの典型的な […]

-
高齢者への身体的虐待
■高齢者への身体的虐待介護疲れ等の理由から、介護者が高齢者に対して身体的虐待を行ってしまうケースは少なくありません。しかし、どのような事情があっても虐待は許されませんし、その程度によっては刑法上の犯罪が成立する場合もあり […]

-
通勤中の事故は労災と...
労災保険の対象となる災害の中に、「通勤災害」というものがあります。通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労災保険法7条1項2号)。負傷などの災害は、通勤中に一般的に生じる可能性があ […]
